子どもの資質・能力を育むポイントは、「効果的なICT活用」と「思考を深める発問」

学校向けタブレット学習ソフト「ミライシード」の活用と「ICTサポータ」による支援を組み合わせた4自治体合同実証研究の結果報告

株式会社ベネッセホールディングスの子会社、株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山県岡山市、代表取締役社長:小林 仁、以下:ベネッセ)は、早稲田大学大学院 田中博之教授(以下:田中教授)監修のもと、埼玉県戸田市、愛媛県西条市、東京都文京区、東京都豊島区の4自治体の教育委員会と連携し、2018年6月から2019年3月にかけて、児童・生徒の資質・能力を育むための「主体的・対話的で深い学び」(以下:アクティブ・ラーニング)を取り入れた指導モデルを検証する実証研究を実施しました。

本研究は、学校での一斉・協働・個別、各々の学習場面に対応したベネッセのタブレット学習ソフト「ミライシード」の活用と「ICTサポータ」による支援を組み合わせて、小中学校8校の児童・生徒734名(小5生292名・中2生442名)を対象に実施しました。以下、実証研究の結果について報告します。

アクティブ・ラーニング指導モデル検証の背景

小学校では2020年度から、中学校では2021年度から施行される次期学習指導要領において、アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善が求められています。その実現においては、ICT を活用した学習活動の充実を図る旨が規定される(※1)と同時に、指導面・学習面ともにPDCAサイクルを回していくなど、その質的な担保が求められています。(※2)

アクティブ・ラーニング指導モデル構築に向けた取り組み

このような背景をふまえ、ベネッセでは、アクティブ・ラーニング研究の第一人者である早稲田大学大学院の田中教授監修のもと、アクティブ・ラーニングにおける効果的な指導モデル「R-PDCA(※3)指導サイクル」の検討と、その効果の可視化に取り組みました。本モデルの特長は、ICTを用いたアクティブ・ラーニングの実践前に、タブレット学習ソフト「ミライシード」に収録されている効果検証機能「Evit(エビット)」を用いて、タブレット上でアクティブ・ラーニングの行動調査を行うことです。具体的には、先生が自身のアクティブ・ラーニングの授業実践の状況や児童・生徒の状況をアンケートで把握し、その結果データにもとづいて、これから実践する授業目標の設定を行い、特に育みたい児童・生徒の資質・能力を特定します。

ベネッセは4自治体と連携し、自社が派遣するICTサポータがファシリテートしながら、データにもとづくアクティブ・ラーニングの「R-PDCA指導サイクル」など、次期学習指導要領で求められる資質・能力育成のために必要な指導モデルの検証に取り組みました。

※1「次期学習指導要領を見据えたICT環境整備を進めましょう!(新しい学びの実現に向けて)」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/06/1403502_1.pdf
※2「第三期教育振興基本計画」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1406127.htm
※3 学校における指導改善のサイクル「R-PDCA」は、調査(R)→計画(P)→実行(D)→検証(C)→改善(A)です。

実証研究のイメージ

実証研究の結果概要

実証研究に協力した小中学校8校の児童・生徒734名に、事前(6月頃)・中間(11月頃)・事後(2月頃)の計3回にわたり「アクティブ・ラーニング行動調査」(Research)を実施しました。その結果データの変容や結果を分析したところ、特に小学校において、以下のような結果がみられました。

実証結果①
ICTの「高活用クラス」の方が「低活用クラス」より、事前・事後のアクティブ・ラーニングに係る各項目の肯定回答率の伸びが大きい。
(全項目平均で11ポイントの伸びの差)※タブレット学習ソフト「ミライシード」に搭載された協働学習支援ソフト「ムーブノート」と授業支援ソフト「オクリンク」を使用した授業の回数で比較。「高活用クラス」は週1回以上、「低活用クラス」は週1回未満と定義。※肯定回答は「とてもあてはまる」と答えた人の割合。

実証結果②

先生が「思考が深まるような発問をしている」ことが、アクティブ・ラーニングに関する児童の意識変容に、最も相関があることが明らかになった。
児童に対する質問の肯定的回答と特に相関が見られた先生の行動が「子どもの考えを引き出し、思考が深まるような発問をしている」であった。このことから、思考が深まる発問を工夫することで主体的・対話的で深い学びの実現につながることが明らかとなった。

■ICT高活用クラスほど「思考が深まる発問」によるアクティブ・ラーニングへの意識変容度が大きい

思考が深まる発問と特に相関が見られた2つの項目では、ICT高活用クラスほど伸びが大きく見られ、児童の肯定的回答割合は、ICTの効果的活用と思考が深まる発問が影響することが明らかとなった。

【実証研究対象の学校の先生の声】

・「ミライシード」をどこで使うのかの焦点化やどのような発問をすることで深い学びにつながるかなどについて検討する機会が増え、教材研究の質が高まった。(戸田市 小学校 校長)・授業を組み立てていくなかで児童の思考を深めたい、思考の幅を広げたいというときに「アクティブ・ラーニングガイド」を参考にどのような発問をしていくかを意識して授業を実施した。(西条市 小学校 教諭)・取り組みを通して、子どもたちにどんな力をつけていくのか意識して授業するようになった。エビデンスにもとづく教育はこれから大切になると思う。

これからは学年だけではなく、学校全体、市全体に広めていきたい。(戸田市 小学校 教諭) これらの結果から、児童・生徒の資質・能力を育むためのアクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業づくりのポイントは「効果的なICT活用」と「先生の思考が深まる発問」が大切であると考えます。本実証研究において、行動調査から授業の実践、検証に至るまで監修をいただいた田中教授による考察は以下のとおりです。

【田中博之教授の考察】

今回の実証研究は、4自治体の約700名の児童・生徒と、先生にご協力いただき、大変意義深いものとなりました。先生の行動変容が子どもたちの学習意識に与える影響について、特にアクティブ・ラーニングの観点から研究を行ったことは有意義であったと思います。事前の行動調査の結果を分析し、課題に応じた授業設計ができたこと、子どもたちの意識を変容させるために、ICTと思考を促す発問に着目して授業を設計することが子どもの意識変容につながるというエビデンスが得られたことは、大きな成果だと思います。このようなデータにもとづいて指導改善を行っていくことや、学校経営を行っていくことが、まさに次期学習指導要領で求められるカリキュラム・マネジメントであると思います。その具体的な方法について、今回の実証研究を通して深めることができました。

■「R-PDCA指導サイクル」の詳細① R:状況把握

児童・生徒にどのような力をつけさせるのか、日々の授業における目標設定をするために児童・生徒の実態の把握をします。「アクティブ・ラーニング行動調査」のアンケートに、効果検証ツール「Evit(エビット)」を使ってタブレット上で取り組みます。「アクティブ・ラーニング行動調査」のアンケート項目は、田中教授監修のもと共同で開発をしました。アクティブ・ラーニングの授業実践を通して、児童生徒に身につけさせたい行動や資質能力を項目化したものです。

【アクティブ・ラーニング行動調査】田中教授監修のもと共同で開発。アクティブ・ラーニングの授業に際にポイントとなる先生の指導内容や、児童生徒に身につけさせたい行動や資質能力をカテゴリーに分け項目化したもの。

【効果検証ツール「Evit(エビット)」】※特許出願中 

「Evit(エビット)」はタブレット上でアンケートを実施するためのツールです。オリジナルのアンケートの設定や、配信タイミングの設定が可能です。

② P:指導計画
状況把握(R)で明らかになった児童生徒の状況にもとづいて伸ばしたい力を設定します。ICTサポータは全国の先行事例や「すぐ使えるアクティブ・ラーニングガイド~思考を促す言葉~」を使って、授業づくりのための情報提供を行います。先生とICTサポータで児童生徒の伸ばしたい力を意識した授業計画の検討を行います。

【授業づくりツール「すぐ使えるアクティブ・ラーニングガイド~思考を促す言葉~」】※特許出願中

児童生徒に発揮させたい「思考力」の種類に応じた先生の効果的な「発問」や児童生徒の「話型(答え方)」に着目し、体系的にまとめたツールです。このガイドはタブレット学習ソフト「ミライシード」と連携した内容となっており、ミライシードを活用した効果的なアクティブ・ラーニングの実践に向けて先生方の授業づくりのヒントとなります。

③ D:授業の実践
先生は指導計画(P)で定めた目標項目を意識しながら授業を実施。ICTサポータはタブレット学習ソフト「ミライシード」の効果的な活用をサポートします。アクティブ・ラーニングを通して、子どもたちの力を伸ばしていく授業支援を行います。

【タブレット学習ソフト「ミライシード」】 

ミライシードは、一斉・協働・個別、各々の学習場面に対応したタブレット学習ソフトです。一人ひとりが思考したことを表現し合い、クラス全体での主体的・対話的で深い学び「アクティブ・ラーニング」の実現を支援します。現在、全国1,500校を超える公立小中学校で活用されています。

④ C:振り返り
授業のあとは、「Evit(エビット)」を使ってタブレット上で振り返りのアンケートに取り組みます。当初定めた目標項目に対して、授業の実践によって子供たちの意識がどのように変化したかを測定します。また児童生徒自身が授業での振り返りを自分で振りかえることができる効果もあります。ICTサポータは授業後、アンケート結果や今日の授業のねらいが達成できたか、ICT活用の場面は効果的だったかなどを確認し、次の授業支援につなげます。

⑤ A:指導改善
先生は、得られたアンケート結果や、毎回の授業の振り返りから次の授業の実践につなげていきます。ICTサポータは「ミライシード」の教材の改善など、さらによい授業ができるようご支援を続けていきます。

【今後のベネッセの取り組み】
今回の実証研究の結果をふまえ、ベネッセは、ICTサポータ、タブレット学習ソフト「ミライシード」、効果検証ツール「Evit(エビット)」を活用した「R-PDCA指導サイクル」を、より多くの学校、先生にご活用いただき、子どもたちの資質・能力を育むアクティブ・ラーニングを取り入れた授業の実践が広がることを期待します。今後もベネッセでは、子どもたちの資質・能力を育むアクティブ・ラーニング授業について検証を続けてまいります。

本実証研究に関する詳細について
・取り組みの概要と説明動画はこちらをご覧ください。
https://www.teacher.ne.jp/miraiseed/rpdca